無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
今の咲子は、カメラアシスタントとして一生懸命仕事に取り組むのみ。恋愛する余裕も時間もない。
それに、無自覚な匠の素性を前以てわかっていれば、その言動でいちいち勘違いすることもないと思った。
しかし、そのセリフを聞いた匠は、咲子と真中が気づかない程度になぜか眉をぴくりと上げる。
「咲子ちゃんまだ二十六でしょ? もう仕事一筋なのー?」
「まだまだ半人前なので、今頑張らないと……」
「真面目ね〜!」
ただ、咲子の真面目で健気なところを気に入っている真中は、柔らかく微笑んでいた。
その時、匠の現場入りを知った女性ヘアメイクがこちらに駆け寄ってくる。
明るい色合いメイクとミルキー色の髪を束ねた、美人な沢田が声をかけてきた。
「おはようございます匠さん! ヘアメイクの沢田です」
「……どうも」
「早速メイクしましょう! 真中さん、匠さんもらっていきますね〜」
そして匠に断りもなく、ごく自然とその腕を絡めとった。
しかし、それについて特に嫌がる素振りのない匠は、沢田が誘導するままに歩きだす。
真中は「お願いね」と許可を出すと、匠は沢田と共にこの場を離れていった。
「私たちも準備しましょうか」
「そうですね」
咲子と真中も解散して、最後に咲子がちらりとメイク室のある方に視線を向けた。
匠と沢田が並んで歩く背中だけが見えたが、角を曲がっていこうとしていた。
その時、なぜか沢田だけが一瞬振り向いて、咲子と目を合わせた。
すると、まるで勝ち誇ったように嘲笑し、二人はメイク室へと向かっていった。
初対面の沢田の行動に、咲子は疑問を抱きながらも深くは考えていなかった。