無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く


 本日は、六月初旬発売予定のファッション雑誌の撮影。
 メインとなるブランドの新作と、人気モデル雪島匠とのコラボ特集が組まれている。
 朝十時から開始予定の撮影は、夕方までかかる予定だ。
 そんな中、撮影に必要な機材セッティングを終えて、ノートパソコンを操作する咲子。
 今回カメラを構えるのは全て桂木。そのカメラも照明機材も咲子が整え、準備万端だ。
 そうして、撮影開始予定の十時を迎える。


「雪島匠さん入りまーす」


 先ほど匠をさらっていった沢田の声がスタジオに響き渡った。
 同時に現れたのは、ライトブルーの半袖シャツに白のスラックス姿の匠。
 やはりモデルというだけあって、着こなすのが難しそうな服も違和感がない。
 一気に撮影仕様となった匠が、颯爽と歩いてきた。
 ヘアメイクの沢田も、スタイリストも、雑誌編集部のスタッフも目がハートになる。
 そのルックスと醸し出されるミステリアスなオーラが、女性たちを魅了していた。
 もちろん咲子も、雰囲気がガラリと変わった匠に感心して、言葉を失っている。


(わあ、さすがだなぁ……)
「お待たせしました。よろしくお願いします」


 相変わらず笑顔はないけれど、しっかりと挨拶はする礼儀正しい匠。
 そこへ編集長の真中が声をかける。


「今日もよろしくね、匠くん」
「はい」
「じゃあ撮影開始しましょうか!」


 周囲のスタッフ全員に届くように、真中が両手を叩いて大きな声を出した。
 こうして撮影が開始され、壁側に向かってカメラを構える桂木の前に匠がスッと立った。



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