神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
❖はじまり

どうか、神様ッ……


遠くから、潮騒(しおさい)が聞こえてくる。

息苦しいほどに脈打つ鼓動は、追っ手から逃れたい気持ちによるものか。
それとも、目の前の男を選ぶことへの惑いか。

「どうする?」

選択を迫られ、瞳子(とうこ)は右手を差し出した。

「あんたを、選ぶわ」

月が、雲間からのぞく。
松林に吹いた風が枝葉を揺らし、さざめいた。

男の口元に笑みが浮かび、何事かを述べたが、それは瞳子に正確には伝わらなかった。

代わりに彼女の手のひらには、わずかな痛みと共に、『彼』の“花嫁”となる“(あかし)”が刻まれた───。




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