神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
そう、半月の期限付き“花嫁”である自分の都合のほうが、なんと言っても大きい。期限がなければ、セキにとって急ぐ旅路ではあるまいから、体力的にはともかく、徒歩で行くことも可能だろう。

「いや、俺の事情に巻き込む形になって……」
「ううん、ゴメン、大丈夫! 交換条件なんだし、気にしないで」
「……そうか。ありがとう、瞳子」

いつくしむような眼差しを向けられ、とまどっていると、馬にまたがるような気軽さで『水の龍』に乗ったセキが手を差し伸べた。

「では、行こう」

一瞬だけ気後れし、けれども瞳子はその手を取る。自分よりも大きな手のひらは、いまは十分に信頼に値すると、感じていたから。



結論からいうと、思っていたより『水の龍』の背の上は快適だった。
怖いならつかまってくれて構わないと言われ、素直にセキの緋色の衣をつかんでいた瞳子は、その背に問う。

「それで……具体的には私、何したらいいの?」

右手には紺碧(こんぺき)の海原。左手には黄金に輝く平野。
(はる)か眼下を見下ろせば、高層建築物はなく、点在するのは茅葺(かやぶ)き屋根。
整備された道路はなく、田を走るあぜ道や獣道よりましな、人足で(なら)したであろうでこぼこ道があった。
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