神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
思うようにならない身体と意味の分からない状況。
あせりと恐怖が瞳子のなかでうずまいていた。

「わがみとついなるたましいよ、このちにとどまるいしをしめせ。
わがみわがこころはなんじのもの。
わがなすすべてはなんじのいしによるのものとす」

ふいに落ちてきた言語は瞳子のよく知るはずのもの。
だが、抑揚のない『音』の羅列(られつ)は、瞳子にとって理解し難いものだった。

「このぎをもって、なんじとわのちぎりとなす」

瞬間、瞳子の身体に何者かが覆いかぶさってきた。

「……っ……!」

見上げれば、先ほどの男の顔が間近にあった。
無機質なほどに整った顔を縁取る銀色の髪が、瞳子の顔を囲む幕のように落ちてくる。

吐息が、互いに触れ合う距離。
あらがうことのできぬ状態におかれ、怒りと恐怖から、瞳子は吐き気を覚えて目を閉じた。

(もう、いや!)

なぜ続けざま男に、自分の意思を無視される行いをなされるのだろう。

真っ当に生きてきたと思ったが、こんな理不尽なことをされても仕方がない生き方をしてきたのだろうか。

悔しさから、瞳子の目じりに涙がにじむ。
嗚咽(おえつ)が、のどをつく。
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