神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
礼を言って、懐紙を取り上げて菓子を割る。

黃味(きみ)時雨(しぐれ)だ。卵の黄身を使ったほろほろの生地が、黒こし(あん)をつつんだ蒸し和菓子。
まさか異世界である“陽ノ元”で、これを食すとは思わなかった。

(高校の時以来だわ)

毎週 和菓子が部活動で食べられるという不純な動機で茶道部に入ったことを思いだす。
そんな弱い気持ちだったせいか、高校の三年間、後半はほぼ帰宅部になっていたが。

「やはり、なじみのある菓子だったか。その菓子は、この国の白い“花嫁”が製法を“花子”に伝えたのが始まりだったそうだ」
「……そうなの!?」

ゴクン、と、苦い抹茶で口のなかの甘さを調和した瞳子は、むせ返る一歩手前でセキに問い返す。

「ああ。他にも、黒い“花嫁”が香り高く豊潤な桃を所望して、新種の桃が生まれたり……、ゆうべ瞳子が言ってた『湯殿』も、黒い“花嫁”の考案で造ったそうだ。サ……桔梗が言ってた」
「そうなんだ……。黒い“花嫁”さまさまねー」

そういえば、瞳子がいま身にまとっている着物も、元を正せばこの国の“花嫁”が望んだものだったはず。
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