神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
“神獣”は文字通り、獣の姿をした神だ。仮にも神と呼ばれる存在がなぜ、ヒトである帝の言いなりになったのか。

一説には、その“神獣(かみ)”たちが皆、彼女に懸想していたからだとも言われている」

セキはそう語りながら、和紙に筆を走らせた。
そこには、瞳子のよく知る日本地図───ただし、北海道と沖縄諸島がない───が、描かれた。
多少の差異はあるが、瞳子の記憶にある『本州』『四国』『九州』と、同じ形に見える。

「これが……“陽ノ元”の全体図?」
「そうだ。そして、ココが───“下総ノ国”、コチラが“上総ノ国”だ」

セキの筆先が、『本州』にあたる形のほぼ中央にバツを付けたのち、さらに横に大きくその部分を描き出す。
関東───千葉県にあたる上部分が“下総ノ国”、真ん中の部分が“上総ノ国”らしい。

「各国にはそれぞれ白、赤、黒の三体の“神獣”がいる。ここ“下総”は虎、“上総”は狼……ちなみに“安房(あわ)ノ国”は狐だそうだ」

セキの筆が千葉県の下部を指し、『安房・狐』と書き入れた。

「国なかにあっては“神獣”と呼ばれるが、正式には“国獣(こくじゅう)”と呼ぶ。これは「国から遣わされた神の獣」という意味合いだ。
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