神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「この家に連れて来られた俺が“化身”を解き、元の狼───“神獣”の姿になった時、彼女はまた錯乱し、手のつけようがなかったらしく……彼女の父親───尊臣が、“神獣ノ里”の(おさ)と話し合いの末、俺を萩原家の実子として育てる代わりに、俺に“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”を授けると“誓約”したそうだ」

「剣を授ける……? それが、何になるの? お宝には違いないんだろうけど……」

それでも、瞳子は虎太郎の置かれた立場に同情したのだろう。かすかに潤んだ瞳に、怒りのようなものが混じる。

(やはり、瞳子は優しいな)

他人の境遇を、自分のことのように受け止める。その心の傷つきやすさは、如何(いか)ばかりだろう?

彼女が必要以上に虎太郎達に反発したのも、自分の心を守るためのものだったのだと理解した。

(ずっと、護ってやれたら、どんなにいいか)

だがそれは、叶わぬことだ。瞳子の願いは、元の世界に帰ること。

虎太郎───“神獣”である赤狼(せきろう)は、ただそれを叶えてやるしかない。
自分の想いなど、二の次だ。

「“神逐らいの剣”は、瞳子の言う通り、只人にとっては単なる『貴重な宝』に過ぎない。
けれども、“神獣”にとっては、特別な意味をもつ」

「特別……?」
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