神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「…………その、姫様って私のことですかね? どなたかとお間違えかと思いますよ?
そういう訳で、タクシー呼んでもらえますか?」

目覚めたら見知らぬ和室に寝ており、女中風の二人が瞳子を起こしに来た。

日本国内を旅行中、記憶喪失にでもなったのかも知れない。
……そう思いたいのは山々だが、悲しいかな、瞳子の記憶には、正体不明の男とのやり取りが残っていた。

女中風の二人───“花子”という役職らしい───が、瞳子の言葉に顔を見合わせる。

「“(あるじ)”様を、呼んで参ります」
「いや、じゃなくて、タクシー……」

言いかけた瞳子を完全に無視して、菖蒲と名乗った女は、セツと紹介した少女を残し、部屋を立ち去った。

「たくしぃとは、卓子とは違うのですか?」
「違います。乗り物です」
「姫様のいた世界にある、物の名ということでしょうか?」
「……私のいた世界?」

あえての嫌がらせかと思うような言葉の置き換えにムッとして否定したのも束の間、瞳子はセツの放ったひと言に眉をひそめた。

「どういう、意味ですか?」
「はい。姫様はこの“陽ノ(ひの)(もと)”とは違う、異界の地より“召喚”された御方だと教わりましたので」
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