神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
《八》ずっと、俺の側に
《八》
(なんで、こうなったんだっけ……?)
熱くなる指先と、高鳴る鼓動に、思考が上手くまとまらない。
なかなか落ち着かない心持ちに、叫びだしたくなる衝動にかられる。
(断っても、良かったのに)
別にいいけど、と応えたのは、素直じゃない心と素直になりたい心のせめぎ合いの結果の言葉だった気がする。
「……下手な口実だが、断られなくて良かった」
そう言って少し照れたように笑ったセキを見た時、もう駄目だと思った。
胸の真ん中を、何かが突き抜けていく感覚。息の仕方を忘れてしまうような、焦燥感に似た想い。
「この林を抜ければ、すぐそこだ」
耳に落ちてくる声音が、近い。もうじき、えもいわれぬ時間が終わる。
そう、少し淋しく思った時。セキが、足を止めた。
「瞳子。母上に会う前に、話しておきたいことがあるんだが、いいか?」
改まった申し出に、瞳子のなかの甘い想いがしぼんでいく。
これは『虎太郎』の母と会うための予行演習のようなものだ。
───恋仲の振りをこれから始めてもいいか、と。
母親が滞在する“大神社”までの手繋ぎを提案されたからこその現状だ。
必要なことを、確認しなくては。