神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「おやまあ、随分とお早く『吉兆』とめぐり逢えたご様子。
何よりではございますれば……」

やや曲がった背をひょいと起こしながら、老巫女が瞳子を見定めてくる。
その眉間にあるホクロが印象的だ。

「ふむ。……ふたつの“証”をもつ姫様とは、これまた難儀なことにございますなぁ」

「言うな。俺が選んだ“花嫁”だ。
ところで───母上は、どちらに?」

「虎太郎様ご自身が納得されておられるのでしたら、(ばば)は何も申しますまい。
由良(ゆら)様は、ほれ、あちらに」

枯れ枝のような細く節くれだった指先が、瞳子達のいる反対側の参道脇の林を指した。

ひらり、と、舞うような浅葱(あさぎ)色の小袖の(たもと)が、木々の向こうに見えたかと思うと、消えた。

セキが、舌打ちと共に短く問う。

「“結界”は? ほころびはないだろうな?」

「日がな一日、強化しておりますとも。もとより、この敷地ほど安全な場所など、由良様にはございますまいて」

「……ならば、いい。
ああ、じーさんに、俺が来たって伝えといてくれ。あとで、会いに行くと」

()くに、ご承知かと」

ホホホと笑う老巫女を一瞥(いちべつ)し、セキが瞳子の手を引いた。示された方向へ足早に歩きだす。

「……なんか、大丈夫?」
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