神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《二》御手つきの女


      《二》

「いい加減、悟ってください! 貴方(あなた)にはもう、自由なんてないんです!」
「……悟れって……坊主じゃねぇのに悟れるかよ……」
「はい?」

語尾上がりの聞き返しに、虎太郎(こたろう)小姑(こじゅうと)のような従者をなだめるため笑みを返す。

「まぁそんなにカリカリすんなって。
オババの占いからするとだな、この国の海に近い場所で吉兆が出てるってことだしよ」

出身地の隣国にあたる“上総ノ国”。

大国であるこの国は、海を臨む平野が広がる土地だった。
近い場所などという曖昧(あいまい)な表現で『吉兆』とやらに巡り合えるかは微妙だろう。

月が浮かぶ夜空と平行に映しだされた琥珀(こはく)色の光が、海面に揺れる。

潮風にあたり予兆を待ったが、どうやらこの地ではなさそうだ。

「んじゃ、そろそろ場所変えすっか」
「その、品のない言葉遣いも、改めたほうがよろしいかと。
貴方様を下に見る者が多いのは、それも一因かと存じます」
「あー、オレ、そういうの気にしねぇから」
「少しは気になさってください! だいたい───」

口うるさい従者の声が、途切れる。
その眉根が寄せられたのとほぼ同時、虎太郎が短く問う。

「聞こえたか」
「……はい」
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