神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
反応が遅いのは、関わりを拒む意思表示。
それに気づきながらも、虎太郎の足は走り出す。

「お待ちください!」

舌打ちせんばかりに、後ろから呼び止められたが、構わずに声のした方へと向かう。
……どうせ、あとから付いて来るのだ。

案の定、疾風のごとく行く自分に遅れることなく追尾する───人ならば足を取られ、思うように走れぬ砂地を苦もなく駆けるは人外のモノゆえ。

「いやッ!! なんなの、もうッ……、放してったらッ……!」

女の金切り声を頼りにたどり着いたのは、松林のなか。

月明かりが照らす砂地に足を奪われ、うずくまっているように傍目(はため)には映るかもしれない。

だが───。

物ノ怪(もののけ)か)

人間に害を為し、世の(ことわり)から外れて存在するモノ。

異形の姿と異能の力をもつ、人の世にあっては(いと)われしモノ。

(……と、教わって育ったがな)

虎太郎の出生は稀有(けう)な事情をはらむため、彼らがそれだけの存在ではないことも知っている。

現に、自分の側に在る従者は、人を害するどころか人に益するモノに分類されるだろう。

(そこが、ややこしいトコだよな)
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