神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《十一》深夜の訪い──試される理性


      《十一》

“大神社”の本殿から続く回廊の、さらに奥。

静謐(せいひつ)な空間は、浄化が行き届き過ぎているせいか、本来なら“神獣”であるはずの自分でさえも、居心地が悪くなるような張り詰めたものを感じさせる。

そこにいる人物の俗世で為したことなど、まるで無かったといわんばかりに清浄な空気が流れていた。

「……“花嫁”は連れて来なかったのか? つまらんな」

脇息(きょうそく)にもたれ、こちらを見上げる顔には、幾つもの(しわ)が刻まれていた。だが、その眼光の鋭さは、かつて美丈夫と(うた)われた時のままかと思われる。

「……貴方の娯楽のために“花嫁”や“神獣”が存在するわけではありませんよ」

「なるほど。“神獣”とはやはり、己の“花嫁”を特別な庇護(ひご)下におきたがるものか。
───用件は」

皮肉げな笑みを浮かべ、ぞんざいな口調で告げるのは、『虎太郎』の祖父で先々代の“国司”でもあった萩原(はぎはら)尊臣(たかおみ)

「“神逐らいの剣”を返しに参りました。
この剣の後継に私を据えたのも、貴方がヘビ神と交わした“誓約”のためと聞いておりましたので。
これは貴方に───萩原の家に返すのが筋かと」

腰に吊るした剣を慣れた所作で解き、セキは尊臣の前で座ると、両手で掲げてみせた。
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