神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
萩原家との目に見えるつながりは、これで完全に絶たれる。セキのなかで、わずかなさびしさがよぎった。

しかし、受け取る側の尊臣はといえば、まるで関心のなさそうな一瞥(いちべつ)のもと、口をひらいた。

「ヘビ神との“誓約”か。最初から俺は守る気などさらさらなかったがな」

「は? けれども実際に」

「その剣はお前にふさわしいと思ったからお前を後継に据えた。ヘビ神との約束のためではない。
第一、お前を後継にしたのは、虎次郎───尊仁(たかひと)が生まれたあとだろう」

萩原家に嫡男がいない時ならいざ知らず。【本来の嫡男】である尊仁がいる状態で『虎太郎』を後継者にした意味。

(確かに。考えたら、おかしなことだ)

世間体を重んじるような人ではない。そして、自らの信念のためなら“神獣(かみ)”にすら刃を向けることも厭わない人物───それが、萩原尊臣だ。

(神を前にしても、平然と嘘をつき、あざむく)

何が恐ろしいかといえば、神の威光をまったく意に介さないところだろう。
だからこそ、巫女である婆との間に由良という子をもうけているのだ。

「その剣はまだ、お前の役に立つと思うがな。わざわざ手放すことはない。
未熟な“神獣”よとうるさく言う(やから)がいたら、その剣で()り捨ててやればいい」
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