神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
判断に困る場合もあるが、嫌がる者に無理強いする輩には、人だろうが物ノ怪だろうが、対処は同じ。

「おい」

虎太郎の呼びかけに、うずくまっていた女の顔が上がる。

乱れた髪の合間からのぞく面立ちは、砂にまみれてはいるが美しく、こちらを見る双眸(そうぼう)は、生意気なほどの勝ち気さを宿す。

(……吉兆)

ぽつり。
胸に落ちた言葉と共に、虎太郎は知らず知らずのうちに笑みを浮かべる。

が、横に立つ従者は、苦々しげなつぶやきを漏らした。

「いけませんね」
「何が」
「『御手付(おてつ)き』です」

やっと見つけたと思った『兆し』を否定され、不満げに見下ろせば、自らののどを人差し指でトントンと叩く従者と目が合った。

その意味に、虎太郎は女の首に視線を走らせる。

はだけた着物の合わせに行きかけた目を無理やり軌道修正すると、のどもとに白い“(あと)”が見えた。

「……だとしても、放っては置けないだろ」
「むしろ厄介事は放置の方向でいて欲しいのですが」
「お前の手はわずらわせねぇよ」

低く、つぶやくように言いながら、虎太郎は腰に()く刀の(つか)に手をかける。
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