神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《十二》イヤじゃないから、困ってた


     《十ニ》

目の前で、セキが大きな溜息をついた。

「あー……、うん。瞳子? その前に、ちょっといいか?
イチから、正確には何て聞かされたんだ? “神獣(オレ)”に真名(なまえ)を伝える方法について」

うつむきかげんで、軽く額に手を添えたセキは、彼にしてはめずらしく不愉快そうな表情をしている。

(こんな夜更けに押しかけて、睡眠妨害されたって、怒ってる?)

時間は関係ないと言ってくれてはいたが、非常識であることは確かだ。
瞳子は自身のあせりから為した行動を恥じながら、昼間イチから教わったことを思い返す。

「だから……アンタと仲良くなることで、アンタと触れ合えば、伝えられるって」
「あー……そうか、うん。間違っては、ないな」
「そう? 良かった……! なんか私、イチに意地悪されてウソ教えられたのかと」

セキの肯定に、イチにだまされたのかと疑いかけていた瞳子は、ホッと胸をなでおろす。
直後、ふいに視線を上げたセキが硬い声音で告げた。

「間違ってはないが、瞳子が思い違いをしているのは確かみたいだから、言っておく」

セキの焦げ茶色の眼が、瞳子をまっすぐに、射抜くようにして向けられる。
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