神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
気恥ずかしい想いにかられ横を向くと、ヤレヤレと言わんばかりにイチが溜息をつく。

「知ってて召し上がらなかったんですね。なんていうか、もう」
「室内なら危なかったけど、廊下だったからな、ある意味救われた」
「貴方の微妙な男心はどうでもいいんですけどね。ただ」

そこで、からかい半分だったイチが、真顔に戻る。

「瞳子サマは、元の世界に帰りたいそうです」
「……そうか」
「で、もう一度、こちらに戻ってきたいそうです」
「…………お前、楽しんでるだろ?」
「諦めてください。貴方をからかうのは『おれの』趣味なので」

ま、戯れはこのくらいで、と言ったのち、悪友の顔がふたたび従者の顔に戻った。

「親も兄弟もなく、『かれし』とやらも居ないそうですが、どうやらけじめをつけたいようですね」
「かれし?」
「文脈と以前カカ様がおっしゃってたことから察するに恋仲のことかと。
“花嫁”の“召喚条件”は、できるだけ元の世界に未練のない者を()びたいとのことでしたので」

事もなげにイチは言ったが、セキはヘビ神の言葉に複雑な想いをいだく。
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