神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
(瞳子……)

強引に、自分のものにしてしまわなかったことに、後悔はない。むしろ、その想いに触れてしまったことに、後悔があった。

(知らないままなら、オレの独りよがりの苦い思い出で終わったのかもしれないのにな)

セキは、明日からの瞳子と自分の接し方を考えなければと思った。

もう一度、同じように瞳子に触れて、理性を保てる自信がないからだ。
瞳子を元の世界に返してやるためには、瞳子との距離を適度に保たなければならないだろう。

「──いけませんね、と、初めに私が申し上げた通りになったでしょう?」

目の前で両手を打ち鳴らされ、はっと我に返る。イチが、冷ややかな眼差しでこちらを見ていた。

「貴方の()せ我慢がいつまで続くか見物ですと言いたいところですが。……貴方、変なこと考えてませんよね?」
「変なこと?」
「瞳子サマと適度に距離を置かなければ〜とかですよ」

図星を指され言葉につまると、あきれたように見返される。

「やっぱりですか。……貴方、微妙な女心には疎いですからね。それで実緒(みお)殿をあれだけ怒らせてしまったんでしょうし」
「なんでここで実緒が出てくるんだ?」

セキは思わずムッとした。
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