神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
戌の初刻。“大神社(おおかむやしろ)”本殿。
指定された刻限と場所に向かうには少し早い、夕暮れ時。

「あの小賢しい“神官長”が何を仕掛けてくるか解りませんからね。直接現地へ『移動』するより、歩いて“結界”内を抜けて参りましょう」

というイチの提案に、薄暗いなか瞳子に山道を歩かせるのに抵抗があったセキだが、当の彼女が、

「私、歩くの苦にならないから全然平気。休みの日、ランニングが趣味だったし」

と、嫌がることもなく承諾してくれたので安心したものだった。

「乱、忍、愚……何かの修行か?」
「ちょっと、アンタまた脳内でおかしな変換したでしょ! ランニングってのは、走ること! なんなら私と駆けるの競う?」
「……いや、またの機会にしとく」

バシッと思いきり腕を叩かれたあと、走る真似をされ思わず噴き出すと、瞳子は我に返ったようにセキの腕に手を置いた。

「ゴメン、叩いて」
「ああ、気にしないでくれ。そんなやわな身体じゃない」

笑いの余韻が残るまま、自らの腕にある瞳子の細い指先に触れかけて、するりと身をかわす。

「──獣道だ。いくら歩くのが得意といえども、険しい道のりになる。俺が道をならすから瞳子は後に続いてくれ。
イチ、後ろは任せた」
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