神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「いや、訊かないと際限なく瞳子に触れたくなるからな。それでは瞳子が困るだろう?」
問いかけると、意外な言葉が返ってきた。
「アンタが私に、さわらないほうが困るのよっ」
ぽすっ、と。気の抜けたような力のない拳が、ふたたびセキの胸を叩く。
「アンタが私のためを考えてくれてるのは、解る。けど……昼間とか、さっきみたいに距離を置かれるのは、イヤ。
そんなの……寂しいじゃない……!」
「瞳子……」
ぎゅっとひざ上でにぎりしめられた小さな両拳が、いじらしい。
つかの間、ためらい。それでも胸をつく衝動に従い、瞳子のかたくなににぎられた拳を、両手でつつみこむ。
「すまなかった。俺の考えが浅いせいで、不快な思いをさせたな。
……身体は、本当に大丈夫か?」
瞳子の手の甲を親指でなでながら確認すると、本人は居心地悪そうに答えた。
「え? あ、うん。セキが助けてくれたし……それに、保険もあったの」
「ほけん?」
「イチが“赤比礼”ってのをくれて」
「……そうか」
“比礼”というのは、見えない衣の総称。物理的な攻撃や衝撃から身を護る防御の“呪”のようなものだ。
“赤比礼”というからには、赤い“花嫁”専用のものなのかもしれない。
特殊な“呪”を物にこめるのが得意なシシ神の“化身”猪子が、手製でこしらえた織物だろう。
問いかけると、意外な言葉が返ってきた。
「アンタが私に、さわらないほうが困るのよっ」
ぽすっ、と。気の抜けたような力のない拳が、ふたたびセキの胸を叩く。
「アンタが私のためを考えてくれてるのは、解る。けど……昼間とか、さっきみたいに距離を置かれるのは、イヤ。
そんなの……寂しいじゃない……!」
「瞳子……」
ぎゅっとひざ上でにぎりしめられた小さな両拳が、いじらしい。
つかの間、ためらい。それでも胸をつく衝動に従い、瞳子のかたくなににぎられた拳を、両手でつつみこむ。
「すまなかった。俺の考えが浅いせいで、不快な思いをさせたな。
……身体は、本当に大丈夫か?」
瞳子の手の甲を親指でなでながら確認すると、本人は居心地悪そうに答えた。
「え? あ、うん。セキが助けてくれたし……それに、保険もあったの」
「ほけん?」
「イチが“赤比礼”ってのをくれて」
「……そうか」
“比礼”というのは、見えない衣の総称。物理的な攻撃や衝撃から身を護る防御の“呪”のようなものだ。
“赤比礼”というからには、赤い“花嫁”専用のものなのかもしれない。
特殊な“呪”を物にこめるのが得意なシシ神の“化身”猪子が、手製でこしらえた織物だろう。