神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「瞳、子……」
(そんな風に言われたら、もう、自制がどうだとか、こだわってたオレが馬鹿みたいに思えてくるだろう)

───嫌われたくないなら、嫌われないように行動で示せばいい。自制が利かないからなんて、逃げていた己が滑稽(こっけい)だ。

(瞳子が大事だと思うのなら、なおさら)

その想いを表さずに、何を(もっ)て『大事だ』というのか。

拒まれないと知ってなお、一線を越えずに、それでも彼女を想えばいい。余すことなく、伝える手段はあるはずだから。

ぬくもりも、吐息も。溶け合う熱におぼれることも。
触れ合ってはいけないのではなく。触れ合いながらも、彼女の望むべき道を阻まなければ、いいだけのこと。

(危うく、間違えるトコだったな)

腕のなかで、うるんだ瞳とせつなげな息遣いでこちらを見上げる愛しの“花嫁”に、もう一度だけ、唇を寄せたあと。
すっかり薄暗くなってしまった辺りを見渡したのち、セキは上を向いた。

「イチ! この落とし前の付け方は、解ってるんだろうな?」

黒髪のおせっかいな『従者』を呼び寄せる───対峙(たいじ)すべき相手の待つ場所へ、向かうために。





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