神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
輝玄は扇を閉じると、そこでニッコリと笑ってみせた。

時間(とき)は、かかろうね?」
「───承知した」

いまいましげに、セキが息をつく。

「では、まず先にイチ、次に瞳子、最後に俺という順で送り届けてもらおうか。
……まさか、順番にまで制約はないだろう?」
「それは、君たちの思うように。
私が一度にあちらへと送り届けられるのは、自分ともう()ひと方というだけだからね」

いらだちを隠せない口調で問うセキに、輝玄は楽しげに笑ってみせる。
それを渋い表情で受け流したあと、セキが瞳子に向き直りながら自らの腰に手を伸ばした。

「瞳子。先にイチを行かせるから大事はないと思うが、念の為、これを預ける」
「え? でも───」
「頼む、受け取ってくれ。
俺が本来の“神獣”の力を持っていれば、瞳子と離れていても、別な護り方があるんだが、今は……」

だからこそセキ自身を護り、相手をいなすために“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”があるはず。
それを、瞳子に渡そうとするセキの真意に、胸を打たれる。

わずかな時でも離れれば、自分が瞳子を護れないと不安になり、何かせずにはいられないのだろう。
セキのその想いを()み、瞳子はわざと茶化してみせた。

「そんな顔、しないで。一生の別れじゃないんだから」
「……ああ」
< 230 / 374 >

この作品をシェア

pagetop