神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
そして、海中に存在するという、“大神社”の本殿らしきものが見えた。
短い(きざはし)の上、開放された造りの板の間の社殿が、白狼(はくろう)たちから指定された場所だろう。

緊張しながらも、先に来ているはずのイチの姿を探す。

「瞳子さん!」

突然、名を叫ばれた。

駆け寄ってきたのは、銀色の髪をした美形の男、白狼だった。
初めて会った時と同じ白い着物姿だが、金のししゅうが(たもと)と裾に鶴を描いていた。

瞳子はその呼びかけに、一瞬、違和感を覚える。

(なんだろ、なんかうまくいえないけど、変な感じ……)

ひるむ瞳子に気づきもせず、白狼が瞳子の手を取った。じっとこちらを見る顔に、なぜか安堵(あんど)の色が広がっていく。

「良かった……」

その言葉に秘められたものに、瞳子はとまどった。まるで、心の底から瞳子の身を案じていたかのような響き。

(私を、あんな化け物を使って、捕まえようとしてたのに?)

困惑は、やがて瞳子のなかで罪悪感に変わる。
ひょっとして、何も言わずに消えた瞳子を、心配していたのだろうか───?

(……ううん、違う)

思い返せば白狼は、問答無用で瞳子の身体の自由を奪い、意のままに自らの“花嫁”として扱おうとしていたはず。

(あなたは僕のために()ばれたって)
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