神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《五》赤と白の対峙


      《五》

瞳子が目の前から消えると、セキは(はや)る気持ちを抑えきれず、水晶玉へと手を伸ばした。

「次は、俺だな」
「……いやいや、せっかち過ぎませんか、セキ殿。先程も申しましたが、多少の霊力の持ち合わせはあれど、私は貴方がたとは違い只人なのですよ?
少し、休ませてくださいよー」

ふう、と、わざとらしい溜息をついて、肩を落とす。輝玄(てるつね)の態度に、セキは思わず語気を荒くした。

「いったい、どういう了見だ、輝玄殿」

すると、ニヤリと意味ありげな笑みが返ってくる。

「こういってはなんですがね、セキ殿。
……君、うまくやったよね?」
「は?」
(この男、何が言いたいんだ?)

あざけりを含む笑みを向けられ、頬がひきつるセキに対し輝玄が言った。

「天女様に、羽衣を返す───そう約束して彼女の信用を手に入れ、優しくすることで自分に縛り付けた。……違うかい?」

確信めいた問いに、反発したのは刹那(せつな)。次いでセキの心を占めたのは、後ろめたさだった。

無論、瞳子の信用を得るために「元の世界に帰す」と、約束したわけではない。
ここではない何処かから、無理やり連れて来られた存在。自分の意思などお構いなしに、この“陽ノ元”という世界に喚ばれてしまった“花嫁”。
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