神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「ハハハッ! 君はもっと温厚な人柄だと思ってたよ。意外にも好戦的だね、嫌いじゃない。

天女様のことを(おとし)めたつもりはないが、なるほど、確かに君の手管にあっさりやられたとなれば、お手軽な姫君となってしまうね!

私からすれば、わずか数日で天女様の心を射止めた君が、妬ましかっただけなんだ。いや、気を悪くさせたようで、すまない」

あえて口にださずに済ませようとしたことを、全部 口にだされた。

(その口、縫いつけてやろうか)

イチもいらんことをたびたび口にするが、そのほとんどはセキの行末を案じてのこと。
それが解っているから口喧嘩(げんか)のようなじゃれ合いはあっても、本気で憤ることはない。

だが、この輝玄に関していえば、セキをからかい怒らせたいだけのように見える。
……つまり、遊びだ。人の心を弄びたい(やから)のすること。

(悪趣味め)
胸中で吐き捨てるに留め、セキは己を律しながら冷静に告げる。

「口先のみの謝罪は無用。本心からそう思うのなら、行動で示してもらおうか、“上総(かずさ)ノ介(のすけ)”殿」

神獣(かみ)”すなわち、“(かみ)”の位にあるの自分のほう。高位にあるのはどちらかと。
あえて輝玄の官吏としての呼び名を使い、序列の優位性を表して従えようとする。
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