神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
(穂高家の『手飼い』か?)

人に危害を加える類の物ノ怪(もののけ)とは思えなかったが、瞳子の着替えについて行くわけにもいくまい。
そう思って息をつくと、輝玄が察したように言った。

「ご案じ召さるな。竜姫も乙姫も、この“大神社”に仕える童女(めのわらわ)
……まぁ『人ならざるモノ』ではありますがね。天女様に(あだ)なすモノではありませんよ。

それより」

扇を開きつつ、輝玄が目を細める。

「白狼殿を傷つけるとはね。ここは不浄を(いと)う“大神社”なんだよ? いったい、この不始末の責めをどうする気だい?」
「……我が剣の落ち度とはいえ、“花嫁”を護ろうとしたことには違いない。

それに」

じろり、と、セキは冷ややかに輝玄をにらみ返す。

「【ここは】社殿の外では? 無論、殿中にて剣抜くがまかりならぬこと、承知のうえ。

しかしながら、白狼殿や貝塚殿が【また】“花嫁”に無礼を働くのであれば、慣例(しきたり)に逆らうこともあると“上総ノ介”殿に承知願おう」
「……うん。屁理屈も得意であったね、萩原家の方は。
いいよ、此度(こたび)のことは不問に付すとしよう」

セキにしか聞こえないような小声で告げたのち、輝玄が声を張り上げた。

「それでは、ご一同。本殿へと参ろうか!」
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