神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
瞳子の着替えを手際良く助けてくれたりもしたが。片言の話し方といい、醸しだす雰囲気は確かに幼女とは思えなかった。

あぜんとする瞳子たちの前で、輝玄が社殿の外を示す。

(けが)れも酷い。潮水で(きよ)めて差し上げろ」
「竜ヒメ、『穢れ』キライ! 潮水ツケる!」
「乙ヒメも! 『浄め』スル!」

ひょろりとした体型ではあるが、保平は大人の男。しかし、竜姫と乙姫は難なく二人がかりで抱え上げ、広間から連れ去って行った。

「……さて。天女───“花嫁”様、先を続けてもよろしいかな?」
「えっ……あの、はい」

あっけにとられていたものの、我に返れば保平の言葉にしこりがなくなったわけではない。
だが、設けられた『話し合いの場』がこのままで良いわけもなく。
瞳子は複雑な心境のまま、苦笑いを浮かべる輝玄にうなずいてみせた。

保平の退場をもって静まった広間。輝玄が仕切り直すように書状に手を添えながら口をひらく。

「赤狼殿の言い分は、解った。しかし、こちらに居わす“花嫁”様が白狼殿とも“契りの儀”を交わしたというのも事実。
……であれば、二柱の“神獣”の“花嫁”という“役割”を担うことも、適うともいえるが、いかがか?」
「それはっ……! 前例のないことで───」
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