神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
安堵(あんど)にも似た微笑は、やわらかく、優しい。
とても本性が狼とは思えないが、だからこそ。

(ああ、私……セキのこと、本当に好きだな)

護る、と言ってくれた彼を、瞳子のほうが護ってあげたいと、思う。
ずっと、日向(ひなた)で丸まっているような、飼い慣らされた狼のような、そんなセキのままであって欲しい。

(狼の“神獣”が『犬』みたいじゃ、いけないのかもしれないけど)

少なくとも【牙の抜かれた狼】ではないことは、瞳子も知っているのだから。

「なんだか、あてられてしまうねぇ」

輝玄がわざとらしく扇で自らをあおいでみせる。それに同調するように、イチが大きな咳払いをした。

「天女───“花嫁”様がおっしゃられたことが事実だとすれば、ここでの議論は無意味であったね。
いや、天女様が嘘偽りを述べるなど、私は思いもしないがね?」

一瞬、セキの眼が剣呑(けんのん)に光ったのを見逃さず、輝玄はそう付け加えると、押し黙ったままの白い“神獣”を見遣る。

「白狼殿。私が言うのもなんだが、君は、新たな“花嫁”様を迎えたほうがいいのかもしれないよ?

もちろん、先だっての“召喚の儀”において、すでにカカ様への献上の品は受け取っているからね。今度は、赤狼殿からの奉納となるだろうがね」
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