神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
『あなたをこの世界につなぎ止めるには、やむを得ない行いでした』
「は? 女に乱暴を働くことが、なんでやむを得ないのよ!?」

瞳子の追及に、狼の目が見ひらかれる。

『……いま、なんと言いました?』
「ちょっと、言葉でも人を(はずかし)める気?」
『あなたの身体の自由を奪ったのは、確かに強引なやり方でしたが』

つい、と、狼の鼻先が瞳子ののどに押し当てられる。
濡れた感触のくすぐったさに、瞳子は身をよじった。

「ヤダ、何するのよ!」
『ここに付けたのは、僕の“花嫁”としての契約の“証”。
あなたと僕をつなぐ、目に見える絆です』

じっと、狼が射抜くように瞳子を見据えた。

『あなたの純潔は、奪っていません。あなたの身体は今も、清らかなままです』

瞳子は、まばたきをした。
狼男の放つ語感に、自分のなかでの言葉の咀嚼(そしゃく)がままならなかった。

(……えっと?)

「つまり、ヤってないってことよね?」
『…………そうなりますね』

明け透けな瞳子の問いに、脳内に語りかけてくる声が若干引いてるのが逆にいまいましいが。

(やった! ヤってなかったんだ!)

急に目の前が開けたような気がして、瞳子はややこしい喜びを胸中で叫ぶ。しかし───。
< 26 / 399 >

この作品をシェア

pagetop