神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
決して、良い間柄とはいえないのだ。
“神獣ノ里”の長、並びに萩原家──特に『祖父』と、“下総(しもうさ)ノ国”の“神獣”たちとは。

セキは、懐に忍ばせた“呪符(まもりふだ)”を取り出す。

この国───“下総ノ国”の“神獣”と、その“花嫁”が住まう屋敷が点在する山中に、セキはいた。

辺り一帯に張りめぐらされた“結界”は、神域中の神域を護る役割を果たす。
かつて史上最強の“神官”との呼び声も高かった、賀茂(かもの) 愁月(しゅうげつ)の手によるものだった。

イチに送り届けられた“大神社(おおかむやしろ)”を抜け、獣道をひた走り、目印である小石の山を見つけた。
すぐ近くには、梅の木がある。ここで間違いないだろう。

「我、この道を隠したる者に連なる者なり。故に知る、(おとな)うべき(ところ)()に在ることを──『解呪(かいじゅ)』」

“結界”を抜けるための文言を唱え、手にした短冊で小石の山をひとなでする。
目の前にあった樹海のような鬱蒼(うっそう)とした森は消え、人足で(なら)したような一本の道が、林のなかに現れる。

(よし。とりあえず、じーさんの“呪符”はまだ使える)

イチがいれば難なくすり抜けられるだろう“結界”も、【半神前】の“神獣”であるセキにとって、そこを抜けるのは至難の業。
それで途中“大神社”に寄り、尊臣から“呪符”を借りて来たのだ。
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