神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
《八》花嫁を欲する理由
セキの前に背を向けて立つ、後ろ姿。
栗色の髪は肩先ほど。白い掛水干に、ふくらはぎ半ばまでの黒い筒袴。
背丈は瞳子と同じくらい。女性らしい丸みのある身体つきで、セキをかばうように広げた両腕の先、右手の甲にあるのは───。
「咲耶様!」
「───っと、旦那っ!?」
白い三本の爪痕───白い“花嫁”である“証”が刻まれている。
そして、彼女の傍らに立つのは、セキが目通りを願っていた人物。
「お初にお目にかかります、白虎様」
超然とした佇まいの白き“神獣”に軽く頭を下げたのち、セキは、こちらを振り返った女性に苦笑いを浮かべてみせた。
「ご無沙汰をしております───咲耶様」
「コタくん、だよね? なんか……大きくなったねぇ……」
「咲耶様は、お変わりなく……いえ、あの……助けていただき、ありがとうございます」
呼び方と眼差しが妙に面映く、セキは、しどろもどろに言葉を返す。
あはは、と、そんなセキを笑い飛ばすのは、“下総ノ国”の白い“神獣”の“花嫁”、松元 咲耶であった。
「相変わらず、正直っていうか……。
ね、私のこと「サクヤ姫というからにはどんな女性かと思ったら、何やら地味な面立ちですね」って言ったの、覚えてる?」
「いえ、あの……物知らぬ阿呆な子供の戯言ですので……」