神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
《九》もう一度、信じても
目覚めた瞬間、夢ならいいと、思った。
けれども、夢ではないことは記憶として残っていたし、最期も看取ったことも事実。
「ホントに、独りになっちゃったな……」
つぶやいても、現実は変わらない。何かの拍子に涙はあふれるが、幸い、仕事中は緊張感が抜けないせいもあって泣くことはなかった。
両親が死んで、瞳子を支えてくれた叔母───朱鷺子が亡くなって半年が経つ。表面上は何事もなかったかのように、瞳子は日々を送っていた。
「瞳子さん!」
従業員用の駐車場から、職場であるショッピングセンターへ向かう敷地内道路脇。いきなり呼びかけられて、瞳子は驚いてそちらを振り返った。
「……樋村───さん」
心のなかで呼び捨てていた癖で敬称をつけるのを忘れ、あわてて言いそえた瞳子と、それほど変わらない上背の男。瞳子より、確か三歳下だったか。
「おはようございます。あの、あと」
言って樋村が、彼についての情報源であるパートさんらいわく『アイドル顔負け』の笑顔をみせる。
「誕生日、おめでとうございます」
「…………ああ。わざわざ、どうも」
こういうところだ。瞳子が、樋村を苦手に思っていたのは。
(たとえ誕生日知っていても、妙齢の女性に言う?)