神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「ふふっ、犬貴はあげないよ? まぁいまはセキくんに『貸出中』だけど」

冗談まじりに応えてくれる咲耶に、瞳子も気を許す形で次々といろんな問いをぶつけ、咲耶もまたそれに前言通り、答えてくれるのであった。

そうして、咲耶にこの“陽ノ元”について教わりながらも、女子特有の話題を交えたり……と。会話が弾むなか、突然、玲瓏な声音が割って入った。

「……楽しそうで、何よりだ」
「えっ。わ、……百合子さん!」
「息災のようだな、咲耶。……そちらがセキの嫁御の瞳子か。身体は、もういいのか?」

障子を開け、入って来た黒髪の美女。年の頃は二十歳(はたち)前後だろうが、まとう雰囲気が瞳子より遙かに上の年齢を感じさせる。

「……はい。おかげさまで」
「もう、びっくりさせないでくださいよ!
……あ、こちら、下総ノ国の百合子さん」

コソッと付け足された言葉と黒い着物姿に、これがあの新種の桃や湯殿を“陽ノ元”にもたらした『黒い花嫁様』か……と。瞳子はしみじみと思う。
咲耶からは、表面上は冷たく厳しいが、実際は優しい女性だと聞いている。

「廊下まで聞こえるような大声で笑っていては、下の者の声掛けにも気づくまい。……私が人払いをした」
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