神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
(ここ、どこ!?)
歩いても歩いても、あるのは草木に囲まれた山道しかない。いや、正確には獣道だ。
(なんなのよ……今どき山奥にだって電気が通ってるんじゃないの?)
電柱はおろか、舗装された道にすら、たどり着きそうもない。
(おかしいと思ったのよね)
外に出たいと言った瞳子に対し、菖蒲は特に渋ったりはしなかった。
「散策するのに歩きやすい格好がしたい」と瞳子が望むと、筒袴へと着替えさせてくれたほどだ。
(きっと、すぐにあきらめて戻ってくると思ったんだわ)
そんな風に自分の行動を予測されていたのかと思うと、悔しさがこみあげてきた。
来た道を素直に引き返す気には、ならなくなってしまう。
あまのじゃくであることが短所である自覚はあった。
しかし瞳子は、己の感情の赴くままに草木をかき分け、大股で前へ前へと進み行く。
「何か、お困りでチュか?」
突然。
草木の間から、そんな声が聞こえてきて、瞳子はビクッと身を縮めた。
「何? 誰よ!?」
「……ダレ~? と、言われまチても。言って解る相手じゃないれチュよね?」