神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜



翌朝。
朝餉(あさげ)ののち、瞳子は桔梗(ききょう)に付いて何やら教わりたいことがあるらしく、セキはひとまず瞳子抜きでイチと今後について話すこととした。

「……昨日は咲耶様たちの手前、黙っていたが」

セキの自室。障子を透かし、入り込む陽ざしが暖かい。小春(こはる)日和(びより)だ。

「お前、コクの(じい)さまと話つけてたこと、なんでオレに言わなかったんだ?」
「……ああ、その件ですか」

それにつられてか、主を主と思っていないらしい黒髪の従者が、軽く手を添えながらあくびをもらす。
やはりイチは、『名ばかり眷属(けんぞく)』の立ち位置を変える気はないようだ。いまからでも咲耶に犬貴の重用を直談判しようかと考えていると。

「貴方と黒虎(こくこ)様の関係を考えれば難しいことはないかとも思ったんですが、百合子様が何とおっしゃるか微妙だったんで、伏せておきました」

それと、と、イチが急に渋い顔をする。

「この先、貴方が“上総(かずさ)ノ国”の“神獣”として在るなら、同国の“神獣”様とのつながりを……とも思い、黒狼(こくろう)様との面識をもつべきだとも考えたのですが」
「まったく取り合ってもらえなかったぞ。黒狼殿は、各方面に喧嘩(けんか)を売っておられるのではないか?」

イチによれば、先触れは間に合っていたようだから、単にセキを嫌ってのことだとも思える。
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