神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
それ以上に、ひと付き合い……もとい、神付き合いが悪いともいえよう。

「……お顔の(あざ)はご覧に?」
「先に言っといてくれ。あれは、“(まじない)”の類いではないんだな?」
「ええ。貴方があれを見て失礼な態度をとるとは思わず、あえて申し上げなかったのですが」
「順序がな……こちらとしては、己の手落ちを悔いたのだが、それが面に出ていらぬ誤解を招いた」
「ああ……確かにそれは、貴方らしからぬ失態ですね」

セキの言い分を聞きながら、イチは納得した表情となる。そして、声をひそめた。

「どうやら黒狼様は、とある天ツ神によって嫌がらせとして印を刻まれたようです」
「嫌がらせ?」
「まぁ時折ある気まぐれの一種でしょうがね。(かん)に障るとか、その程度でも手酷い仕打ちを与えるのが『あの神々(かたがた)』の世界ですから」

声を荒らげたセキに対し、イチは至って冷静な口調でそれに応えた。

人々の世界で暮らす『国ツ神』である“神獣”と、神々の世界で神を従える『天ツ神』。
神としての力量はもちろんのこと、視座も違い、“神階(しんかい)”も違う。

(【半神前】のオレには到底考えも及ばぬ世界だ)

もっとも、現世(うつしよ)に在る“神獣”が常世(とこよ)に在る天ツ神と交わることは、ほとんど無いだろうが。
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