神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「“返還の儀”に際して、屋敷を覆った“結界”を一時的に解除せざるを得ないので、また黒虎(こくこ)様を頼ることにしました」

というイチの説明通り、この屋敷にはいま百合子の他に、姿は見えないが彼らの“眷属”もいるらしい。
黒虎・闘十郎(とうじゅうろう)本人は、祭壇と篝火(かがりび)が置かれた庭の隅、セキと何やら話し込んでいた。

当初 瞳子が着ていた服は、白狼の“花子”らの手から“神官”である貝塚(かいづか)保平(やすひら)の手に渡り、“神獣ノ里”へと届けられていたらしい。
イチいわく、それが正式な手順のようだ。

そして、今回の儀式にあたり、召喚時と同様の衣服の着用を、イチから求められたのだった。

着替え終え、庭先へと現れた瞳子に気づいたらしいセキが、歩み寄ってくる。

「それが瞳子のいた世界の(ころも)か。珍妙だが、瞳子には似合ってて可愛いな」
「いや、制服姿ホメらても全然嬉しくないんだけど!」

しかも珍妙ってアンタ、と、セキに突っ込んでいると、イチの咳払いが聞こえた。

「瞳子サマ。時は有限ですので。……そろそろ儀式を進めてもよろしいですか?」
「あ……ハイ」
< 316 / 374 >

この作品をシェア

pagetop