神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《二》真の花嫁として



イチの片足が、大地を強く踏みしめたその刹那───セキの目の前から、瞳子の姿が消え失せた。

(ああ……行ってしまったな)

空虚な胸の内と、ざわつく心。“花嫁”の望みを叶えるのが“神獣”の存在意義だと解っているのに。

(すでに後悔をしているなんてな)

当初の予定通り、在るべき世界へと帰りたいと願った彼女との約束を、果たしただけだ。
しかも───瞳子はこちらに戻ってくると、言ってくれたのに。

(情けない)

ぎゅっと両拳をにぎりしめたのち、セキはすぐ側で共に儀式を見守ってくれた黒い“神獣”に声をかける。

「コク様。此度(こたび)も御力添えいただき、ありがとうございます。先ほどの助言も肝に命じ、すぐにでも実行に移そうかと存じます」
「……うむ。早いほうがよかろう。また何かあれば、遠慮なく申せ。ではな」

いたわるようにセキの肩口を叩き、黒虎・闘十郎が己の“花嫁”を見やる。

「百合、参ろうか」
「ああ。───あまり気を落とすな。瞳子は約束を(たが)えるようなおなごではあるまい? 信じて待ってやれ」
「……はい。ありがとうございます、百合様」
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