神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「なんじの“花嫁”の帰還を許そう」
(……よし!)

と、セキが思惑通りに進んだことに喜んだのも、つかの間。

「ただし、(あま)の神々の手前、それ相応の理由なくば“陽ノ元”に戻すは、難儀なこと。
“花嫁”がいた世界に行き、なんじの手で“花嫁”を連れ戻すが良い」

煌が放った言に、セキは困惑を隠せない。

「あの……おっしゃっている意味が……」

すると、幼き姿の“神獣ノ里”の長は、面白そうに口角を上げた。

「なんじゃ、(さと)いかと思うたが存外鈍いのう。
───なんじの“花嫁”を【(まこと)の“花嫁”として】“陽ノ元”に連れ帰れ。さすれば誰も文句は言うまい」

言って、煌は隠されていた赤い瞳をひらき、セキを見据えた。

ヘビ神である煌が目を開けるのは、その類い(まれ)なる力を遣う時のみ。
過去・現在・未来を自由に視ることを可能とし、また、いかなる時空への干渉も実現するという、その力。

「そんな、こちらの都合で……」

瞳子に断りもなく、“陽ノ元”に戻るための要件として、名実ともにセキの“花嫁”になることを強制しろというのか。

(オレだけの問題では済まなかったか……)
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