神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
セキは、歯がみした。最後の最後で詰めを誤ったようで不甲斐ない。

「だから役得しかないと言ったでしょう? セキ様」

そんなセキの横で、イチが事もなげに口をひらく。

「あ、意気地なしの貴方に後押しして差し上げるなら、瞳子サマは【あちら】に戻った際、大怪我をされると思いますよ?」
「は? なんだとっ……!?」
「“召喚”の対象となる方は皆、命の危機に直面されてる状態らしいので。
ほら、貴方が瞳子サマの世界(ところ)へ行く名目が立ちましたね」
「お、前っ……!」

煌や猪子の眼前で、彼らの『子息』にあたる朔比古に手を出すわけにもいかず、セキが怒りに震えていると。

「どうした、赤狼。なんじは“花嫁”の願いを叶えるためにここへ来たのではないのか?
我としては、なんじの“花嫁”が“陽ノ元”に戻ろうが戻るまいが、一向に構わぬが。
さて、どうするのだ?」

煌以外、この場にいるのはセキの味方かと思ったが───実際は、己以外、全員敵といった心地となる。

猪子が、(とど)めの言を刺した。

「赤狼殿。“花嫁”の無事の帰還を願うなら、他に選択の余地はないはず。(はよ)うカカ様に御身(おんみ)を任せなされ。
意気地のない殿方は、嫌われまするぞ?」
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