神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《三》白河家の役割


      《三》

「──……うむ。美味(びみ)じゃ。いまとなっては、我にとっても良い口実ができた。
近頃、あまの神々どもがうるさくて敵わぬかったからのぅ。礼を言うぞ、赤狼」

【この世界】ではめずらしくないらしい食べ物を、口いっぱいに頬ばり咀嚼(そしゃく)すると、煌は満面の笑みを浮かべてみせた。
その口もとには、血でもすすったかのようなドロッとした液体が付いている。

「……お役に立てたのなら、何よりでございます」

セキは、“陽ノ元”にいた時と同じような朝餉(あさげ)を食していた。
ちらりと、奇天烈な紙にくるまれた茶色い物を持つ、ヘビ神の“化身(けしん)”を見やる───“陽ノ元”での装いと明らかに違う、その姿を。

セキよりも短い黒髪に、草色の貫頭衣(かんとうい)に似た上衣、象牙色の瞳子がまとっていたような筒袴を穿()いている。……どうやら、こちらでの庶民的な童子の格好らしい。

───煌の力によって、瞳子が暮らす世界へとやって来て、二日目。

「赤狼様。お食事はお口に合いましたか?」

コトンと座卓に置かれた厚い陶器は縦長で、中には茶が入っていた。セキの知る『茶』とは違うが、あぶった茶葉らしく、香ばしい。

「ああ、問題なく食べられた。一葉(いちよう)殿の気遣いに感謝する」
「いえ」
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