神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
セキの食膳を片づけながら素っ気なく応じるのは、肩先ほどの髪を束ねた若い男。
煌によれば、彼が【コチラ】に来るたび世話になっている家の者で、神職───ヒノカグツチを(まつ)る社の所属らしい。

セキに対する態度同様、煌に対しても素っ気なく冷淡であることから、おそらくこれが彼の性質なのだろうと思われる。

しかしセキは、その態度にとまどいはしても、不快に思うことはなかった。
実際、右も左も解らない世界で、こちらが【何も解らない】と知ったうえで接してくれているのは、大変有り難いからだ。

───初めてこちらに来た当日。
煌からの簡単な双方の紹介ののち、セキはまずこの世界にふさわしい(ころも)に着替えさせられた。

「……細身かと思いきや筋肉のつき方が違うのか……これだから“神獣”サマは……」
「何か、問題が?」
「いえ、こちらの話です。
……ジーンズもスラックスも用意してあったものじゃ駄目だな。とりあえず、あのデカい犬が着ていたスエット上下が無難か……。
少し、こちらでお待ちください」
「……面倒をかけて、すまない」

独り言なのか厭味なのか。
一葉は手にしていた数枚の筒袴のようなものをセキに穿かせたあと、ブツブツとセキにはよく解らぬ小言を述べ、部屋を出て行った。
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