神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「こちらの考えで『蝶の羽ばたき効果』というものがございましてね」

わざとらしい大きな溜息のあと、玻璃(はり)越しのひとえ(まぶた)の眼が、セキを冷ややかに射貫く。

「例えどれほどささないな出来事であっても、その影響は計り知れない、というものなのですが。
貴方と瞳子様がこちらで出逢った……いえ、瞳子様が貴方を偶然見かけた……でも構いません。そのことによって、瞳子様が【以前はしたことを今度はしない】可能性が出てくる訳です。
貴方とどのように“陽ノ元”で出逢ったかは知りませんが、同じ時間(とき)と場所で出逢わなくなる可能性もあるのです」

「それは……」

反論するでなく、思わず口をはさみかけたセキを、一葉は容赦なくさえぎった。

「ええ。別に、違う出逢い方でも、貴方がたが()かれ合う可能性はゼロ……皆無ではないでしょう。
ですが」

じっ……とセキを見つめ、一葉が冷笑を浮かべる。

「すると、その後の諸々の出来事も変わるはず。いま貴方は【ここに】居ますが……居なくなる可能性も、ある」
「……俺と瞳子の『気持ち』は変わらなくても、出来事が変われば───カカ様が俺を【こちら】にやらなくなる可能性は、否定できないな」
< 337 / 380 >

この作品をシェア

pagetop