神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
───眠れないなら、少し寝酒に付き合ってください」
「えっ? あ、一葉殿……!」

気を遣われた、と、即座に止めに入ったが、すでに一葉は廊下を曲がって(くりや)……台所に向かったようだ。

(基本毒を吐く方だが、根は優しいのだろう)

セキの『語学勉強』も『世間勉強』にも、付き合ってくれたのだから。

「どうぞ」

と、一葉から手渡されたのは、缶ビール。
実物を手にしたのは、これが初めてだ。何度か一葉が用意してくれた晩酌は、セキに配慮してか、日本酒のみだった。

驚いているセキを見て、一葉がニヤリと笑う。

「付き合ってくださいと言ったでしょう?」
「……ああ、なるほど」

苦笑いを浮かべ、見様見真似で缶のつまみ……プルタブといったか、それを引く。

「では、明日のお二人の無事の再会を願って」
「……カンパイ?」
「なぜ疑問系なんですか。そこは気前よく、乾杯! ですよ。遠慮がちに缶を付けないで、ほら」
「わっ……」

コン、と。合わせられた缶から、しぶきが飛び、セキがあわてると一葉は声に出して笑い、缶に口をつける。セキも、続けて初ビールを口に含んだ、が。

「……っ……」
「どうですか? 初めてのビールのご感想は?」
「……舌が痛いな」
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