神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
皮肉げな笑みを向けられても、さすがにこれはセキへの気遣いなのだと解る。

思えば、一葉には本当に世話になった。
ただの世話役としてだけでなく、瞳子とのことでも浅い考えでいたセキをたしなめてくれたりもしたのだから。

「叶うなら、俺の“眷属”になって欲しいくらいだが……」
「は、勘弁してください。私はただの人間ですよ」
「いや、結構な霊力を持っておられると感じるが?」
「それでも、人間(ひと)です。肉体には限界がありますよ」

軽口と本音が半々だったが。セキはそこで、己の考え方と感覚が未だ『人寄り』なことに気づき、ハッとする。

ばつの悪さが顔に出たのだろう。一葉はかすかに微笑んだ。

「ですが、赤狼様のご好意はありがたく頂戴しますよ。私への労いとしてね。
───さすがに、そろそろ休みましょうか? 明晩とはいえ、煌様の『予告』からすると、いろいろと準備も必要でしょうしね」

腰を上げ、こちらを見下ろしてくる一葉に、手もとの缶の中身を飲み干して、セキはうなずいた。

「ああ。明日もよろしく頼む」

いよいよ、瞳子とこの世界で会えるのだ。待ちわびたその日を迎え、夜空に輝く月を万感の思いで見上げる───。



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