神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《四》あなたに逢えたから


      《四》

前方の信号機が青から黄色へと変わり、瞳子はアクセルペダルから足を離し、おもむろにブレーキペダルを踏み込んだ。
そして、告げる。

「……あんまり、見ないで。気が散る」
「ああ、すまない。真剣な瞳子の横顔に見惚(みと)れてしまって、つい」
「……私なんかより、周りの景色見なさいよ。アンタにとっては見慣れないものばっかりじゃないの?」

瞳子は助手席に座ったセキをにらむように見たが、当人はふっと笑って応じた。

「いや、オレにとっては運転している瞳子を見るほうが、眼福なんだが」
「っ……バカじゃないの!」

トールワゴンの軽自動車は本来、空間の広さがウリのはずなのだが、隣の座席に収まったセキの体躯(たいく)では、いかにも窮屈そうだった。
にも関わらず、こちらを見つめ嬉しそうに目を細めるセキに、瞳子はたまらず悪態をつく。

(もうっ……落ち着いて運転できない……!)

「あ、瞳子。信号青だぞ」
「……アンタ、随分こっちの世界に慣れてるみたいだけど。まさか、運転免許持ってたりはしないわよね?」
「ああ、さすがにそこは、白虎(はくこ)様のようには行かなかったな」

面白そうに軽口をたたく感じからすると、あながち不可能ではなさそうだ。

(なに、“神獣”って万能なの? 神サマだから?)
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