神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「残念ながら、狼だしな」
「もうっ……バカじゃないの!」

助手席で大きな身をよじって笑い続けるセキに、何度目か分からぬ悪態をつき、瞳子は今度こそ目的地に向かい車を走らせた。



(……何コレ。なんかめんどくさい)

行き着いた先は、白河家所有の別荘地だという。夜目に見ても、かなり広い敷地と建物なのは確かだ。

“陽ノ元”においてのセキの屋敷を彷彿(ほうふつ)とさせる、典型的な日本家屋。
セキと連れ立って通された居間において、コーヒーと茶菓子が出されたのは、普通のお宅訪問だ───が。

「赤狼様からお聞きしました。瞳子様はこちらでケジメをつけてから“陽ノ元”に戻りたいのだとか。
ご立派な心意気に感服いたしまして、私のほうで少し、お手伝いできることもあるかと思いましてね。
こちらに」

言って、A4の上質紙と黒のボールペンが差し出された。

「その、ご立派なケジメの内容、書き出していただけますか」
(……絶対コレ、嫌がらせで厭味じゃん!)

繰り返される『ご立派』という単語は、どう解釈しても瞳子に対するあてこすりだろう。

一方で、瞳子自身、自分のなかの整理のつかない気持ちもあり、それらを箇条書きすることで、心の整理がつけられることも確かだった。
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