神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「代行の代行は可能ですよ。もちろん、瞳子様が私を信頼してくださるなら、という前提ですがね」
「っ……お願いします!」

不思議なほどに素直に、瞳子は頭を下げていた。“陽ノ元”に行く前ならあり得ないことだった。

誰にも……特にオトコ───男性を頼りたいと思ったことはないし、信頼を寄せることもなかった。
父親しかり叔父しかり。元カレの樋村(ひむら)も。とどめは上司の須崎。
彼らはことごとく瞳子のなかでの『男』というものを失墜させた。

けれど。
瞳子の横で一緒になって話を聞き、一葉の提言に耳を傾ける人好きのする顔をした青年。

(セキに、逢えたから)

『男』という(くく)りで初めから除外せず、そのひととなりを見ようと思えるようになった。───当たり前の心持ちに、なれた。

瞳子の視線を感じたらしいセキが、一瞬、問返すように瞳子を見返したあと、微笑む。

(……だからっ……犬じゃないんだから!)

大型犬がしっぽを振って『なでて?』のアピールをしているように見え、瞳子は思わずセキの額にデコピンをくらわせた。

「───供養の件、承知しました。
それと、ひとつ気になったのは親しいご友人とのお別れなど、よろしいのですか?」
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