神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「あ、恥ずかしながら、親しい友と呼べる人はいなくて」

瞳子とセキのやり取りを黙殺した一葉の問いに応じながら、ふと、瞳子の口をついたのは。

「あの、こちらにいられるのってどのくらいですかね?」
「……何か、気がかりが?」
「会えるか解らないけど、会いたいなって思える存在はいるので。……片想い、みたいな」
「───それはまた……」

ほぼ無表情で顔色の変わらなかった一葉が、初めて驚いたように瞳子を見て、そのあとセキを意味ありげに一瞥(いちべつ)した。

「そうですね。結論から申し上げますと、この世界での赤狼様のお身体の適応を加味して、おおよそ二週間といったところでしょうか」
「二週間……」
「もちろん、前後しても構いませんが───瞳子様がお戻りになるには、要件を満たさないとなりませんからね」
「要件、ですか」

“返還の儀”のように、日取りや瞳子の衣服、儀式の準備のようなものだろうか?

「そちらに関しては……そうですね、瞳子様がすべてのけじめをつけてから、ということになるのでしょうね。でないと、こちらにお戻りになられた意味がないでしょうし」

歯切れよく話していた一葉だが、そこで急に言葉をにごすようにセキを見やり、また瞳子に視線を戻した。
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